透き通った風が人差し指と中指の間を通り抜けた。
切っても切れない水を手に吸い込ませた、輝く未来じゃない、壊れかけた未来だ。
信じていても良い、勝手に飛んだら許さない。
グラムの背中を押す風は厳しい、争いの傷跡、消えなくなった重み。
天井にぶら下がる蜘蛛、毒針を持ちながら向かって来る。
腕に刺し、次は足を打つ筈、打たれたら全身に毒が回って行く、痺れ身体は落ちる。
幻覚を現す英語、一つ目の文字を人差し指で操った。
落ちた身体を癒す香り。
外に出れる方法が欲しくて走り続けた、理由は無い、笑える事が出来ない。
身体を縛る鎖、その鎖から落ちる水滴、銀の香り。
半分下は薄くなって、朽ちていった。
赤い三日月を示す雲は夜と一体化して見えない、白い雲は消えた。
自分に示せない道。
グラムの意識は無くなった・・・。
― イノセンスと花 ―
切なき者の最後を見届ける、俺に出来た事は何一つ無かった真実が光る。
黒い鳥は羽ばたく、何もしなくても良い存在が羨ましい。
夢の中で咲く赤い花、そっと茎の部分を触ったら、赤い血が出てきた。
口へ運ぼうとしたら、スタティウスが後ろから抱き締めた。
柔らかな香りがする。
涙が出ないのは、痛みも喜びも無いから泣けない。
お前のせいにしてやりたい・・・泣きたいけど、泣きたくない理由がそれなりに有る。
見慣れない花を後ろから差し出す、青くて細い形、茎が無く、それを髪に翳す。
不思議な香りが漂うだけ、辛い症状は出ない。
傷つけあった日々、腕に出来た傷跡、今でも残っている。
「どうかな・・素敵な花だろう、君に似合っているよ」
「スタティウス・・」
繋がらない言葉を無理に繋げる。
音を出しながら切れてゆく音がしてきた、どうしようもない。
考えすぎて頭が痛い、眩しい日差しにやられた花、乾燥して何も取れない。
動けなくなったその花は消えていた。
「何?」
前から言おうと思っていたのが嘘に変る、目覚め始めた偽者、瞬きを伏せさす。
衝動と共に生まれた破片の音、両手から毀れる虹色の水、音が聴こえない。
思いの果てに広がる知らない世界が見えて、それが消える。
一度生まれた筈の未来が旨くても、二度目は生まれてこない造りになっていた。
「俺の存在をどう言う存在にしているか、教えてくれないかな」
その言葉に関係の無い音が紛れ込んでいた。
「それは起きてから、本物の僕に伝えれば良い」
定めなんて嫌いだ、俺を裏切った者は即死なせる、すぐ地面へへばり付けば良い。
二度と起き上がれない様にしてやっても良いんだ、あんなに信じていたのが消えている。
目の前に広がる赤い花は消えて、俺の下半身下も薄れて行く、起きたくない。
俺が目覚めたとき、目の前には本物が見えていた、幻想と幻覚に操られていたんだ。
それを信じても悪くない。
綺麗ごとは俺に似合わない、誰にも通じない未来と過去の間、そこに浮かんだのは
闇と孤独の種で咲いた破滅の薔薇。
その危機が迫っていたら、目は死んでいた。
本物と偽者が分からない。
心に問いかけても答えは帰ってこない、散らばる血は頬に散った。
足を歪ませ、二つ折りの足、この目に写るのは確かに・・スタティウスだった。
「お目覚めかい?君は夢を見て陥っていた様だ」
眠気が襲ったのじゃない、悪夢が襲ってきた。
心が歪んでリズムが狂う。
「あ・・・ああ、俺は変な夢を見た、お前と出会ったのだ」
そう言ったら、スタティウスは悲しそうに抱き寄せた。
暖かな感触、瞳から溢れたのは涙、本物の涙。
二度と繰り返せない幻想、何度も出来る幻覚。
孤独を喜びに変えられたら・・・何もかも捨て去る。
全ては本物だったのだ。
頭痛も消え、腕の傷跡は消えない、背中を押す風は無い。
本物の空を見上げる日まで、赤い月は消えないまま。
赤い薔薇に毀れた黒い水、途切れた線を修正して、新たに造りなおす。
新しい未来はもう無い、無くなった。
青い花は散る、俺の体力が減ると共にそれも散る。
一枚一枚丁寧に落とす様に見せかけた。
黒い空へ解き放ったイノセンス。
fin.
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